成年後見

 

後見制度には大きく分けて法定後見制度任意後見制度があります。

法定後見

法定後見には3つの区別に分かれます。
本人の症状の重い順に、後見保佐補助となります。

 1、後見

民法には、本人が【精神上の障害により事理を弁識するの能力を欠く常況にある者】とあります。つまり、判断能力が全くまたは殆どなく、誰かが代わりに財産を管理・処分する必要がある場合です。
*精神上の障害とは、認知症、知的障害、精神障害のほか、自閉症、事故による脳の損傷または脳の疾患に起因する精神的障害も含まれます。
*事理を弁識する能力を欠くとは、自分の行為の結果について合理的な判断をする能力(これを意思能力といいます)がないことをいいます。
*常況にあるとは、終始意思能力を欠く状態である必要はなく、一時的に意思能力を回復することがあっても、通常で意思能力を欠く状態にあれば後見に該当します。

 2、保佐

民法には、本人が【精神上の障害により事理を弁識するの能力が著しく不十分である者(ただし後見開始の審判の原因がある場合を除く)】とあります。後見は、能力を欠くとありますが、こちらは著しく不十分とあります。つまり、本人が自己の判断能力に殆ど自信がなく、自分の財産を管理・処分するには常に誰かの援助が必要な場合が保佐にあたります。具体的には、日常の買い物程度は出来るが、重要な財産行為、例えば、不動産や車の売買、お金の貸し借りなどは自分ではできない、という程度です。

 3、補助

民法には、本人が【精神上の障害により事理を弁識するの能力が不十分である者(ただし後見または保佐開始の審判の原因がある場合を除く)】とあります。保佐は、能力が著しく不十分とありますが、こちらは単に不十分とあります。つまり、本人が自己の判断能力に少し自信がなく、本人の財産を管理・処分するには誰かの援助が必要な場合がある、という状態が補助にあたります。具体的には、重要な財産行為は自分でできるかもしれないが、できないかもしれないという心配があるので、本人の利益のためには誰かに代わってやってもらった方がいい、という程度です。

後見、保佐、補助に該当し、審判が下ると、成年後見登記簿なるものに記載されます。昔の禁治産宣告と違い、決して戸籍に記載されることはありません

申立てから審判まで

申立

申立て場所は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
*住所地とは、生活の本拠のことで、住民票の住所が生活の本拠であるならば住民票の住所地の家庭裁判所、施設が生活の本拠であるならば、施設所在地の家庭裁判所になります。
申立人は、審判を受ける本人、配偶者、四親等内の親族が主な申立人です(ほかにも未成年後見人、検察官などがあります)。親子間はもちろん、例えば、叔父や叔母、いとこ、に対しても申し立てをしてあげることは可能です。
*本人以外が申立人となって保佐の申立をする場合、本人に代わって代理権を保佐人につける場合は、本人の同意が必要です。
*本人以外が申立人となって補助の申立をする場合、常に本人の同意が必要です。
申立ての手順は、申立書を作成して、必要書類を添付して家庭裁判所へ申立をします。申立書は、各家庭裁判所の雛形があるので、それを参考に作成します。添付書類は以下のとおりです。
本人の
・戸籍謄本 1通 
・住民票 1通
・登記されていないことの証明 1通
・病院の診断書 1通
申立人の
・戸籍謄本 1通
成年後見人(または保佐、補助人)候補者の
・住民票 1通
・身分証明書1通
・登記されていないことの証明 1通
それ以外に、本人の財産目録収支予定表などを作成します。そのために、本人の全財産を調べます。現金預貯金、不動産、生命保険、有価証券、あと借金もです。収入はいくらか、支出はいくらかも調査します。本人が死亡した場合の相続人予定者も調査します。また、その方々が、今回の申立てに同意しているかどうかも聞いておく必要があります。
登記されていないことの証明とは、『自分は成年後見登記簿に記載されていませんよ』つまり『今現在、成年被後見人ではありませんよ』という証明書です。窓口受け取りは、東京法務局もしくは各地の法務局や地方法務局(出張所や支局では取得できません)の戸籍課、郵送では東京法務局民事行政部後見登録課への申請によって取得します。

審判 

書面を提出した後、家庭裁判所が書面を調査します。その後、受理面接という裁判所の調査官との面接があります。本人、申立人、候補者が家庭裁判所に出向き、調査官の面接を受けます(家庭裁判所によって若干取り扱いが異なります)。候補者が適任であるかどうか、本人の精神状態はどうかなど、書類ではわからない部分を、直接、面接で判断するのです。また、身体的に出向くことができない場合は、施設や病院に調査官が出向いて面接することもあります。
後見開始の審判をするには、原則、家庭裁判所で鑑定という作業があります。本人の精神の状態を鑑定するのです。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは鑑定はありません。具体的には、本人が植物状態にあるとの医師の診断書がある場合、近い時期に別の件で鑑定が行われていて、本人の審判時の精神の状況が明らかである場合などです。なお、保佐開始の審判でも同様ですが、補助開始の審判では鑑定の規定はありません。
家庭裁判所が、後見・保佐・補助に該当すると判断した場合は、それぞれ審判が下ります。
審  判
住所 ○○県○○市○○町○○番地
     申立人 後見 太郎
本籍 ○○県○○市○○町○○番地
住所 ○○県○○市○○町○○番地
住民票上の住所 ○○県○○市○○町○○番地
     本 人 後見 花子
            ○○年○○月○○日生
本件について、当裁判所は、その申立てを相当と認め、次のとおり審判する。
主  文
1 本人について後見を開始する。
2 本人の成年後見人として次の者を選任する。
   住所 ○○県○○市○○町○○番地
   氏名 後見 太郎
3 手続費用は申立人の負担とする。
                平成○○年○○月○○日
                    ○○家庭裁判所
                      裁判官 公平 一郎
この様な審判が下ります。
申立てから審判までの期間は、管轄裁判所にもよりますが、1~2ヶ月程を見ておいた方が良いでしょう。後見人候補者が特定していて、特に問題がなければ審判まで早いのですが、第三者の専門家を選任する場合は、候補者選びで時間が掛かるため、2ヶ月は必要と考えておいた方が良いでしょう。また、受理面接の1週間前までに申立書提出の必要があります。したがって、申立書の作成に掛かりながら、受理面接の予約を先に入れておくと良いでしょう。この予約が、数か月先になることがしばしばありますので注意してください。
申立費用は、切手費用、印紙代として10,000円程です。一般的に後見の申立てよりも、保佐、補助の申立ての方が印紙費用が掛かります。また、場合によっては鑑定の費用も掛かります。そして、後見人が選任された後は、後見人に支払う報酬も視野に入れてください。

必要性について
たしかに認知症の方全員に成年後見人が付いているわけではありません。付いていなくても家族が困らなければ、それで結構です。しかし、こんなことは考えられませんか。例えば・・
「不動産の売買契約をしたいが、売主が認知症のため契約ができない」
「遺産分割をしたいが、相続人の一人に認知症の人がいる」
「親と離れて暮らしているため、悪徳業者の詐欺にかからないか、目が届かなくて心配だ」
「金融機関でお金をおろそうとしても、本人が認知症のため窓口で断られた」
「やましいことなく親のお金を管理しているが、兄弟姉妹から怪しまれるのが心配だ」
「親のお金を管理してきたが、自身が病気になってしまいこれ以上はできない」
このようなケースは実際に数多くあります。親族が後見人になって、しっかりと管理ができるのが望ましいですが、兄弟姉妹間で、親の財産をめぐってもめているケースでは、第三者に後見人として管理してもらうといった方法も検討します。後見人は家庭裁判所へ定期的に被後見人の財産や生活の状況を報告する必要があります。この報告書は、利害関係者は閲覧ができ、親族は後見人の仕事ぶりを知ることができます。

任意後見

法定後見との違いは、その名の通り任意性が高いということです。法定後見では、後見人や保佐人、補助人の行う範囲は法律で定められた事項に限られますが、任意後見は、本人の意思が尊重されたいわばオーダーメードの後見制度です。
法定後見が本人の財産維持(静的活動)を目的とすることに対して、任意後見は本人の意思次第では活用型の(動的活動)財産管理行為となる余地があります。

任意後見契約

任意後見の大きな特徴は契約にあることです。法定後見の場合、後見人と被後見人との間に契約はありません。あるのは家庭裁判所の審判といった国の行為です。
契約ですので契約自由の原則が働きます。具体的には、『自分にもし認知症の症状が現れたら、二男の○○に後見人を任せたい、そして、不動産を処分して、得た財産を使って、将来入所する施設は○○にしてほしい。任意後見人である二男への報酬は月○○円とする』などといった契約をします。契約ですから法律行為です。したがって、認知症になってしまう前に、元気なうちにこの様な契約を交わします。そしてこの契約は、公証人役場で公正証書によって行います。

効力の発生

任意後見の効力の発生は契約締結時ではありません。契約する公正証書には、任意後見監督人が選任されたときから効力が生じる旨の条項が必須で、任意後見監督人選任時から効力発生です。つまり、次男の○○が、「あれ?最近オフクロの様子がおかしい」と感じ、家庭裁判所に対して、任意後見監督人の選任の申立てをします。そして、裁判所が、精神上の障害により事理を弁識するの能力を欠く常況にある、と判断した場合は監督人が選任され、任意後見契約の効力を発生させるのです。したがって、法定後見では必ずしも後見監督人が付くとは限りませんが、任意後見では必ず後見監督人が付きます。そして、その場合、任意後見人は事前の契約によって選ぶことができますが、任意後見監督人は自分の意思では選べられません。
なお、申立ては、本人、配偶者、4親等内の親族からでもできます。また、本人以外の申立ての場合は、本人の同意が(原則)必要です。

契約の解除

任意後見監督人が選任される前であれば、いつでも公証人の認証を得た書面をもって契約の解除ができます。
任意後見監督人が選任された後ではそう簡単にはいきません。その状況では本人の保護が優先される為、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て任意後見を解除することができます。

継続的見守り契約と死後事務委任契約

身寄りのない方、また、あえて親族に財産管理行為をさせたくないという方こそ是非、この任意後見制度を使ってみることをお勧めします。信用のできる司法書士や弁護士といった専門家に依頼して、その専門家と任意後見契約を締結します。
その際、継続的見守り契約を締結することも合わせてお考え頂きたいと思ます。見守り契約とは、 任意後見契約書とは別に交わす契約で、元気な時から定期的に訪問をしてもらい、様子を確認してもらうことが主な契約内容です。任意後見の効力発生に至るまで、定期的に連絡を取り合い、本人を見守ります。例えば、『70歳までは1年に6回訪問し、70歳を超えたら毎月訪問する、年間の報酬は○○円とする』などです。なお、この契約は公正証書でする必要はありません。
継続的見守り期間を経て、任意後見契約の効力要件に該当したら、契約の内容に沿った後見業務が開始されます。そして、本人の死亡により、任意後見契約も終了します。民法上、委任契約は本人の死亡によって終了するからです。
そうなった場合、死後の財産処分に関する問題はどうでしょうか。遺言を残しても、遺言執行だけではその遺言の内容の範囲しか約束はされません。そのために死後事務委任契約なるものを締結しておく方法があります。死後事務委任契約は、遺言執行以外の細かな事柄が記載されることが有ります。例えば、『通夜、告別式は○○で執り行う(または執り行わない)その際の費用は○○円まで、遺骨は○○のお寺で供養してほしい』といった内容などももりこまれたりします。つまり、継続的見守り契約任意後見契約、更に死後事務委任契約に合わせて遺言を残す、といった4点セットで、おおよその問題はクリアーできます。

この様に、法定後見とは違い、任意後見制度を使うことにより、より本人の希望に沿ったライフプランを実行していく事が可能です。そのためには今、元気なうちから行動に出る必要があります。


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